ヴェルディのオペラ『リゴレット』の第3幕の四重唱「美しい愛らしい娘よ(Bella figlia dell'amore)」を、リストがピアノ用に編曲したものです。
リストの楽譜はムジカ・ブダペスト版が定番のようなのですが、ブダペスト版は店頭になく、ヘンレ版とショット版があったので買ってきました。
この2冊、全く様子が違います。
ヘンレ版は、表現優先の書き方で、見たまま素直に弾けば自然に曲が仕上がる感じ。
実際、練習してから思ったのですが、ヘンレ版は親切丁寧。
ここ、どうやって弾くと良いのだろう… 疑問に思ってヘンレ版を見ると、ちゃんと答えの手助けが書かれているのです。
ショット版は、基本的な楽譜の書き方で書かれていて拍を大事にしています。
例えば、連桁(音符と音符をつなげる横棒のことで、たいていは拍ごとのかたまりでつなげます)のくくり方。
くくり方が変われば、弾き方は全く変わります。
音の向きはヘンレ版のくくり方ですが、決して強拍の位置が変わるわけではないので、拍の取り方はショット版。
テーマの書き方も違います。
ヘンレ版を見ると、どの音をどんな風に弾いたら良いのかわかる気がしますが、ショット版は割とあっさり。
ウナコルダの指示の違いなら自分で決められますが、和音を弾くタイミングやタイの付け方、音まで違うのは、どれが正解か悩むところ。
定番と言われるならば、やっぱりムジカ・ブダペスト版を見なければ…
巻頭にリストの自筆譜(部分)が載っていました。
連桁の書き方はヘンレ版が自筆譜と同じでした。
ブダペスト版は、一見、ヘンレ版に似ているような気がしますが、強弱の指示はショット版に近いような…
ブダペスト版を買った頃には、割とヘンレ版寄りで弾くようになっていたので、また惑わされることになりました。
こう弾く!という確信を持ちたかったのですが…
いろんなピアニストさんの演奏を聴いてみましたが、みんないろいろ。
テンポ、強弱、表情、それぞれ違ってどれも参考になりますが…
タイや音が違うところもみんないろいろでした。
辻井伸行さんのCDの演奏は本当に美しく感情的で、こんな風に弾けたらと思いましたが、もちろんそんな風には弾けないし、完全に真似できたとしてもそれはただの表面のコピーでしかありません。
リストの本を読んでも、リストの他の曲を見ても、わからない…
結局、いろんな楽譜が混ざり、いろんなピアニストの演奏(解釈)が混ざり、頭の中がごちゃごちゃのまま、3冊の楽譜を抱えてレッスンへ向かいました。
私、「わけがわからないです、楽譜も演奏方法も全部バラバラで、どれを選択したら良いのかわかりません…」
すると、先生は「パラフレーズってそういうものでしょ?好きに弾いたら?」
…なるほど。
アドバイスになっていないようなアドバイスですが、その一言で解決。
頭の中、スッキリ!
前へ進めました。
好きなように弾こう!。
それが間違ってないという確信が持てました。
いろんな楽譜を見て、いろんな演奏を聴いて、本も読んで、悩んだ時間があったからだと思います。
先生は、それをわかって「好きに弾いたら?」と言ってくださったのだと思います。
1冊の版を信じて弾いていたり、最初から好き勝手弾いていたら、悩みもしないし幸せかもしれないし、それも美しい演奏かもしれないですが、それが中身の詰まった演奏とは思えません。
なぜそう弾くの?と問われてきちんと答えられる、意思をもった演奏がしたい、音楽を自分の中で噛み砕いてちゃんと消化したい、と思うのです。