ピアノの製造工程を見学できたのもとても楽しかったでのすが、ショールームや資料室の展示がとても興味深く、新しい発見がたくさんありました。
ヤマハ掛川工場のショールームでは、音色の違いを実際に聞けるようになっていました。
カワイ竜洋工場の歴史資料室には、いろいろな材質の変遷がわかるパネルがありました。
もし、響板がスプルースでなかったら…
ピアノの弦の音を大きく増幅させるスピーカーの役割をする響板。
ガラスは硬い音で早く減衰してしまい、アルミだとふわっとまとまりなく緩く伸びすぎました。
クリストフォリ(チェンバロ製作者、ピアノを発明)のピアノの響板には、ヨーロッパ地中海地方産のサイプレス(糸杉)が使われていました。
サイプレスは、チェンバロ製作においてよく使用されたそうです。
そして、弦を打つハンマー。
もし、ハンマーヘッドが羊毛でなかったら…
鹿革、ゴム、ローズウッド、アルミ、銅、鉄。
羊毛が一番まろやかでまとまった音がしました。
金属系は鋭く細い音、ローズウッドも硬くて細い音。
ゴムは硬い音の外側に、ふわふわとコーティングされたもう1種類の音が聞こえる二重構造でした!
1720年クリストフォリ製のピアノのハンマーヘッドは、薄い羊皮紙を巻いて筒状にしたもの、1795年ワルター製のハンマーフリューゲルでは、木に鹿のなめし皮を数枚重ね貼りしたものが使用されています。
鹿革のハンマーヘッドは、丸みがあるもののはっきりと硬い音でした。
ハンマーフリューゲルの時代は、まだ音量が無かったですので、これくらい硬い音がちょうど良かったのかもしれません。
現代のグランドピアノには、木の芯にフェルトを強く巻き付け接着したものが使用されています。
フェルト部分は、中心が硬く、外側にいくに従ってだんだん柔らかくなるように作られていて、赤い部分は「アンダーフェルト」と言って、とても硬くなっています。
表面を触った感触は柔らかいですが、手で押しても変形しないくらい硬く作られています。
鍵盤も時代によって材質が変わります。
イタリアンスタイルチェンバロは黄楊(柘植)、フレミッシュスタイルチェンバロ(16~18世紀フランドル地方で製作)は牛骨とカエデ黒染です。
フレンチスタイルチェンバロは黒檀と牛骨で、白鍵と黒鍵が逆の色になっているピアノです。
19世紀ウィーン製のピアノの鍵盤は貝殻で、キラキラとしてとても美しいです。
現代のピアノの鍵盤は、もともと象牙と黒檀でしたが、ワシントン条約で1989年より象牙の輸入が禁止されました。
そのため、現在では、アクリルなどが使用されています。
グランドピアノのカタログを見ると、ヤマハは白鍵がアイボライト、黒鍵はフェノールや黒檀調天然木。
カワイは、ファインアイボリー白鍵(抗菌効果)、ファインエボニー黒鍵(抗菌効果)、またはアクリル白鍵、フェノール黒鍵を使用しています。
象牙は、汗を吸い取ってくれるそうで、触るとしっとりと柔らかい印象を受けます。
昔のピアノや、中古ピアノ屋さんなどに行くと、たまに出会うことができます。
ピアノは、どんどん音域が広がり、音量が出るように改良されてきました。
きっと、ピアノ職人さんたちが、もしこのパーツがこの材料だったら…、この作り方なら…と研究をしながら作ってきたのだと思います。
完成形と思っている今のピアノも、まだまだ改良途中かもしれません。
サイレントピアノや自動演奏ピアノも、ピアノの歴史の一部となるのでしょうか。