2022年12月23日

上げたり下げたりして

ずっと椅子の高さに苦労しています。


私が小学2年生の時のこと。
背が低く力も弱かった私に大きな音を出させようと当時の先生がくださったアドバイスは、できるだけ椅子を高くして体全体の体重をかけて上から鍵盤を叩きなさいというものでした。
今考えればおかしな話で、そんなことで大きな音が出るものでもなく、むしろ音色は悪くなり音は飛ばなくなります。
そもそも大きな音を無理やり出す必要もありません。
それに、大きければ良いというわけではなく、その曲にふさわしい音色を出せるかということの方がはるかに大事なことです。

上から鍵盤を叩きながら弾く感覚のまま成長した私は、身長が伸びて高校生になっても一番高い椅子の高さで弾いていました。
きっと美しくない音で弾いていたのだと思います。

高校生の時に今の先生に出会い、体の使い方を教えていただく中で、椅子を下げなくてはならなくなりました。
始めはとても弾きにくく、本当に嫌になるくらいミスタッチが増えました。
指の先から腕の付け根まで角度や動かし方を教えていただいて、身体の軸は動かさずに。
わかったようなわからないようなを繰り返しながら毎日練習をしていました。

適切な高さに肘があって指の先までが自然な形になれば、自ずと体や腕の重みが鍵盤にかかるものです。
その重みを利用して無理なく省エネで弾くことが大事です。
それが難しい…

理想の音と弾き方を求めているうちに、どんどんと椅子の高さは下がり、ついには一番下まで下がってしまいました。
私の背の高さを考えると、一番下の低い椅子が不自然なことはわかっていました。
私より背が高いピアニストはたくさんいらっしゃるのに、椅子がもう下げられないということは、誰もその低さを求めていないということです。

そして、ここ何年かで盛大に太ってしまって、腕を動かすのにお腹やら胸やらが邪魔で、ピアノから体を遠ざけて弾いていました。
手を自由に広範囲に動かすためには、お腹の前の空間が必要だったのです。
椅子は低い、体は遠い…


弾いている自分自身は何の違和感もなく自然に弾けるのですが、写真や動画で見ると不格好です。
だからって、上げてみると、失敗する…
一番下が安定して良く弾けるし、出したい音を出せるので、割り切ってその高さで弾いていました。
きっとこの高さは私がピアノを弾く上で、一度通らなければならない高さなのです。

さて、コンクールに出た時のこと。
コンクールによりますが、審査員の先生方から講評をいただけることがあります。
そこに書かれていた、椅子の高さのこと。

低すぎるのではないですか?

実は、同じコンクールで2年連続で同じこの審査員の先生に当たり、2年連続で同じ講評を貰ってしまいました。
審査員の先生はもちろん私のことなど覚えてはいらっしゃらないでしょう。
ですが、2回目の時、審査員の先生を見た瞬間に私は「また椅子の先生がいる!」とわかってしまい、あまり良くない講評を想像してしまいました。

私の先生は、理想の音を出せるなら椅子の高さや位置は自分の思う通りで良い、と言ってくださいますが、自分も気にしていたことなので、考えずにはいられません。

上げてみたり、また下げたりしながら、ちょうど良い高さを探ります。
今では、さすがに一番下ではありませんが、バッハやベートーヴェン、ショパンは低め、リストは少しだけ上げてみる…と、曲によって変えながら試行錯誤しています。


先日、姪にピアノのペダルのことを話していました。
例えば…と言いながら、私が練習しているスクリャービンのソナタを1フレーズ弾いてみせました。

姪が弾いている椅子に座って弾いたので、椅子の高さは一番上です。
その状態で弾くと、何とも思いがけず、理想に近い音色でスムーズに弾けました。
もしかして、この曲は椅子を上げた方が良い?


その後、自分の練習の時、椅子をいつもよりも上げて弾いてみました。
出したかったキラキラと澄んだ音が出ました。

大きなヒントを貰いました。
椅子を下げて練習していたので、上げるとミスタッチすることがありますが、理想の音色は少し上の高さで出るようです。
弾きやすさよりも音色を優先したいので、その高さで練習してみましょう。

何年経っても、課題も疑問も山積み。
それが、10年前を思い返すと弾けなかったところが弾けるようになっていたり、先生に言われていたことをやっと理解しかけていたり。

上げた椅子がまた下がる日が来るかもしれませんが、いろいろ悩みながら続けていこうと思います。

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