2019年8月22日

音楽の殿様

和歌山県立博物館で「南葵音楽文庫の至宝―楽譜でたどる西洋音楽の歴史―」を見てきました。


紀伊徳川家16代当主の徳川頼貞が集めた西洋音楽関係資料の展示。
作曲家の自筆譜や自筆書簡、筆写譜、当時の刊本。
楽譜の展示数は41点、全部読んでいたら1時間も経っていました!


展示は、1500年頃の『使途書簡および福音書の朗唱法』から始まりました。
赤色で4線の楽譜。
こんなに古い楽譜が日本にあるなんて、びっくりです。


昔の楽譜は、ハ音記号がたくさん。
出来るだけ五線から出ないように、容赦なく楽譜上のドの位置が変わっていきます。
それでも、何百年も前から楽譜の決まりごとは変わっておらず、全て読めるので、楽しくて仕方がありません。

J.S.バッハ『クリスマスの讃美歌「高きみ空より我は来たりぬ」によるカノン風変奏曲BWV769』(当時の刊本)。
1747年にドイツ・ニュルンベルクで出版された初版です。


上段が鍵盤、下段がペダル。
下向きの棒も音符の右側にくっつけて書かれています。
現在は下向きの棒は音符の左側に書きますが、バッハの時代のように右側の方が書きやすいような気が…

バッハの他に、ヘンデルやパーセルなど、ルネサンス音楽とバロック音楽の資料が14点ありました。

古典派・ロマン派の時代の資料は27点。

C.P.E.バッハ:《『正しいクラヴィーア奏法』のための6曲のソナタの形による18曲の範例曲集》(当時の印刷楽譜)は、指番号がぎっしり書かれていて、音符も細かくて難しそうでした。

L. モーツァルト『ヴァイオリン奏法』の当時の刊本。
当時の本を見ると、とっても威厳がありそう。
当時のヴァイオリニストたちは、この本から学習していたのですね。

ベートーヴェン『シラーの頌歌「歓喜に寄す」による終楽章合唱つき交響曲(第9番) Op.125』(当時の刊本)。
「交響曲第9番」の初版です。


1824年5月にウィーンで初演され、ドイツ・マインツのショット社が出版を受託しました。
しかし、作品の献呈先が決まらず出版が延期されていましたが、ショット社は1826年7月に印刷作業に入っていました。
10月にベートーヴェンからの指示を受けて、1827年1月に出版されることになります。
この初版増刷には、メトロノームによる速度指示が書かれていますが、南葵音楽文庫が所蔵する初版には速度表示が書かれていないため、最も早い段階の印刷楽譜ということになるそうです。

ベートーヴェンの自筆譜もありました。
『諸国の民謡集』より「ロシア民謡」、ベートーヴェンがちょっとしたお小遣い稼ぎに書いた曲だそうです。


ベートーヴェンの「月光」の日本初版。


表紙のベートーヴェンの書き方、一体どうなっているんだ?
「ベ」は普通に「ヘ」の右上に「゛」ですが、「ウ」の「゛」は「ヱ」の上にあります…

今回の展示で一番新しいものは、プロコフィエフ『10の小品』より「スケルツォ Op.12-10」。
1906年に作曲されたこの曲は、1914年に、Jurgenson Music Publisher(ユルゲンソン音楽出版社、ロシア)から出版されています。

徳川頼貞が、古いものから新しいものまで、幅広くコレクションしていたことがわかります。



筆写譜も刊行本も、当時の印刷楽譜もどれも美しく、音楽だけでなく芸術にたっぷりと浸れる展示でした。


【まごいち音楽教室】
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