クリムトという画家は、やたら金箔を使って色とりどりのお洒落な絵を描く人なのだと思っていました。
今回の展覧会で、印象はガラリと変わりました。
クリムトが描く人物は、初期の頃のアカデミックな作品も、これぞクリムトという作品も、どれも息をしていて、今の今まで動いていたかのようでした。
作品の中の人が訴えかけてくるみたいで、いい加減に見ていてはダメな雰囲気…
展覧会の目玉は、壁画『ベートーヴェン・フリーズ』(複製)。
1902年開催の第14回分離派展は、マックス・クリンガーが制作したベートーヴェン像を中心に、ベートーヴェンを称賛するというテーマで開催されました。
クリムトは、ワーグナーが1846年に発表したベートーヴェンの『交響曲第9番』に関する解釈に基づいて壁画を制作しています。
全長34mもあるこの作品は、分離派会館の漆喰の壁面に、絵の具だけでなく、金箔、そして貝殻やガラス、宝石なども用いて作られました。
左側の壁面。
「幸福への憧れ」を表わす浮遊する精霊から始まり、甲冑を纏った黄金の騎士が描かれています。
その左には、苦しむ人間たちが膝まずき、騎士に戦うことを懇願しています。
騎士は、背後の「憐み」と「野心」に動かされ、巨悪に立ち向かいます。
正面には「敵対する力」。
ギリシャ神話に登場する巨人の怪物テュフォンと、黒髪のゴルゴン三姉妹。
病、狂気、死なども擬人像として描かれています。
「激しい苦悩」の上を、人間の様々な憧れと願望が飛び越えて行きます。
右側の壁面、黄金の騎士の対面には、「詩」を表わす擬人像。
手に持っているのは、キタラ。
キタラは、ギリシャ神話で音楽と詩の神アポロンが奏でる楽器です。
「幸福への憧れ」は、この擬人像の中に安らぎを見出します。
最後に、喜び、幸福、愛を見出すことができる理想の世界へ導かれ、ベートーヴェンの『歓喜の歌』を歌います。
抱擁する恋人たちは幸福の成就を表しています。
壁画は展覧会終了後に解体される予定でしたが、解体直前に美術収集家によって買い取られ、現在は分離派会館の地下にあります。
今回展示されている複製は、1984年にオーストリア政府によって忠実に再現されました。
「ベートーヴェン・フリーズ」を見た時に一番に感じたことは、白い部分が多いな、ということ。
クリムトは、日本の美術からも影響を受けています。
例えば水墨画や襖絵など、日本の作品には余白がたくさんあります。
何も描いていない部分があるから、描いてあるモチーフがクローズアップされるのです。
白い部分で何を表現しているのだろうか…
何か大事な意味があるんじゃないか…
時間の経過?
想い?
実際に描かれていることよりもたくさんのことが伝わってきます。
「ベートーヴェン・フリーズ」は、クリムトらしい金箔や色彩で描かれていますが、そうでない部分からもいろいろと感じる作品でした。
いつか、本物を見に行きたいな…
クリムトだらけの濃い展覧会。
満足、満足。
お腹いっぱい。
栄養をたくさん浴びてきました。