どうしても、これが弾きにくい!
数ヶ月前のこと。
ショパン「幻想ポロネーズ」の10小節目、2拍目裏の左手のオクターブ。
手が大きな人には何てことない音型なのかもしれませんが、私には難しいのです。
1と5の指(親指と小指)だけで全部を弾くとパサパサしがちです。
手がギリギリなので、黒鍵のオクターブで1と4の指(親指と薬指)を使うと音質が定まりにくいです。
1と3の指(親指と中指)では届きません。
先生に相談すると、両手で弾けば良いじゃない?とのこと。
確かにこれはエチュードではないし、曲の流れを考えた時にも問題ない選択肢です。
実は、両手で弾くことを考えたこともありましたが、何となく楽をしているような罪悪感があり、やっぱり片手で弾いていました。
先生がおっしゃるなら…と、両手でやってみました。
うん、これは弾きやすい。
けれど、何か違う…
両手で弾くと、何事もなかったかのように、あっさりと通り過ぎてしまいます。
ここでは、ぐぅーっと中身が詰まった、ムクムクと出てくるような音が欲しいのです。
もしかしたら、片手で弾いても両手で弾いても、聞いている人には同じに聞こえるかもしれません。
ですが、私にとっては大違い。
その後の音楽にも影響してきます。
いろいろ考えて、結局、片手で弾くことにしました。
弾きにくい音型を片手でテンポの中で弾かなければならないという緊張感と、どうしてもそれを表現したいという欲求が、結果的に理想の音を引き出すのだと思います。
緊張感は、音楽を表現するために必要なものです。
10本の指をどう使うか。
手の大きさや太さ、指の長さは、人によって違いますし、柔らかさも違います。
かけられる圧も動きの速さも違います。
弾きやすいことは良いことです。
その「弾きやすさ」とは、「運動のしやすさ」ではなく「理想の音の出しやすさ」であるべきです。
ですから、例えば楽譜に指使いの指示があり、それが一見合理的でないような時も、恐らく何かしらの意味があるはずです。
楽譜に書かれた指番号は、作曲者が何かを求めていてそう指示されているのか、演奏者が弾きやすいからそう書かれているのか。
音楽を表現するために、自分の指をどう使うかは、最終的には自分で考えなくてはなりません。
理想の音は頭の中にありますが、片手で弾くとなかなかその音が出てこない…
それが何回に一回か理想の音が出るようになり、次第にかなりの確率で弾けるようになります。
練習を重ねているうちに、「幻想ポロネーズ」10小節目のオクターブは、片手で難なく弾けるようになりました。
久しぶりに、理想の音を出せるようになる嬉しさを味わいました。