小さい頃の私はおとなしい性格でした。
ですから、ピアノのレッスンで先生に口答えするなんてできませんでした。
先生にこうしましょうと言われれば、難しいと思っても、なぜ?と思っても、何とかやってみていました。
今、ピアノの先生になり、レッスンをしていると、昔の私のような生徒さんもいますが、中には、嫌なことは嫌、無理なことは無理、思ったことを何でも返してくれる生徒さんもいます。
小学2年生の男の子のレッスン。
楽譜の始めにはメゾフォルテ(やや強く)の表記、そして中間部にはメゾピアノ(やや弱く)。
とても上手に弾いていますが「2つの強弱の違いが聴いていてもわからないから、わかるように弾いてみよう」と言いました。
すると、「mfとmpって、ほんなに変わらんやん。」という男の子。
そんな時、どういう言葉を返すか。
生徒さんとの会話は戦いでもあります。
この男の子には弟がいます。
「mfとmpって、年齢にしたら2~3歳くらいしか変わらんと思うのね。確かに、小学2年生と年長さんってあんまり変わらんよなー。背の高さもあんまり変わらんし、ピアノで弾ける曲も同じようなもんやし、それに力の強さもあんまり変わらんもんなー。」と言ってみました。
男の子は「全然違うし!」と。
やっぱりお兄ちゃんとして弟よりは絶対に強くありたいもののようです。
その後に弾いた曲の強弱は、とても違っていました。
ただ、mfとmpは、f(フォルテ、強く)とpp(ピアニッシモ、とても弱く)くらいの差になり、軽やかに弾いていた曲が、気持ちトゲトゲしくなっていました…
それも何かを表現しようとしているから起こることですし、私との会話からまた違う表現が生まれたということです。
そう考えると、私の2歳差の説得の仕方は、強弱の違いは伝えられましたが、曲の完成を考えると、結果正しくはなかったのかもしれません…
そして、また別の生徒さん。
短い練習曲。
とても勢いよく弾き始めたと思ったら、少し速すぎのようで、指が追いつきません。
「少しゆっくり弾こう」というと、わざと1つの四分音符に3秒くらいをかけて弾き始めました。
これは、私が子どもの頃、家での練習の時に母親に「ゆっくり練習しなさい」と言われて気に入らない時にやっていたことと全く同じです。
母親に反抗したいからやったこと、「天邪鬼なことをするな」と言われても受け入れられませんでした。
さて、どうするか…
「その速さで弾くことに決めたなら、最後までちゃんとその速さで弾きなさい。私、最後まで聴くから。」と言うと、諦めた生徒さん。
20小節もない短い曲でしたが、さすがに1拍に3秒かけるのは無理だと思ったようです。
そのあと、きちんと適度なゆっくりで弾いてくれました。
生徒さんを叱りたいわけでもなく、生徒さんと言い争いをしたいわけでもありません。
やるべきことをやってくれれば良いのです。
その後のレッスンでも「ゆっくり弾いてみよう」と何度か言っていますが、無茶苦茶にゆっくりに弾くようなことはありません。
何でも受け入れてやってみてくれる生徒さんは、素直で頑張り屋さんでとても可愛く、ほのぼのとした気持ちになります。
こちらの言うことを真面目にしてくれるのでレッスンは順調に進みますし、整った美しい曲に仕上がります。
自分の意見をぶつけてきてくれる生徒さんのレッスンは、毎回が楽しく、そして戦いです。
そういう生徒さんの曲は個性的な魅力的な曲に仕上がるような気がしています。