知り合いに、塾の先生がいます。
数学の先生です。
勉強はもちろんできますし、頭の回転も早く、とても賢い人です。
分野は違いますが、同じ先生として、質問をしてみたことがあります。
「生徒に出した宿題って覚えてる?」
その塾の先生は、もちろん全部覚えているそうです。
宿題の中身、前回の授業で生徒が解けなかったところや間違えたところ、自分が言ったことも全部覚えているそうです。
さすがです!
ですから、生徒が宿題をなかったことにして知らんぷりをしていても、先生をごまかすことはできません。
私はどうだろうか…
誰の宿題が何なのか、何の曲のどこを直してくるのか、細かいところは覚えていません。
大きく長期的な課題がある時や、ステージで弾くための曲などは覚えていますが、普段のレッスンの宿題は覚えていません。
実を言えば、細かいことは覚えていようなんて思っていなかったりもします。
生徒さんが、前回のレッスンで何かを間違えていたのか、どういう風に弾いていたのか。
どんどん合格して新しい曲を練習していく子どもの生徒さんに関しては、先週は何の曲を弾いていただろうか、エチュードは何番まで進んでいるのか、と聞かれると、忘れてしまっていることが多いです。
決してレッスンや生徒さんに興味がないという訳ではありません。
一人ひとり、どんな性格なのか、どんな癖があるのか…、そういうことはきちんと理解しようとしていますし、記憶に残っていきます。
何をアドバイスしたか、それも忘れてしまうことがあります。
きちんといろいろ考えながらアドバイスをしていますので、考えなしにいい加減なことを言っているわけではありません。
練習してくるところや内容は、曲ごとにメモ用紙に書いて楽譜に貼っていますが、書いたら忘れてしまいます…
例えば「ここは大きくしましょう」とアドバイスしたところがあり、翌週、生徒さんは言われた通りに大きく弾いたとします。
ですが、一週間も練習すれば他のところの弾き方も当然変わるでしょうから、その兼ね合いで、大きくしないほうが良くなることもあります。
すると、私は「ここは大きくしないで」と言います。
前回のレッスンで、「ここは大きくしましょう」と言ったことを覚えていて、「やっぱり、ここは大きくしないで」と言うこともありますし、前回のレッスンで言ったことをすっかり忘れていて、「ここは大きくしないで」と言うこともあるでしょう。
先週言ってたことと違うやん!と思うかもしれませんが、音楽とはそういうものです。
数学は、誰が解いても答えは一つ、どんなコンディションであっても間違いは間違いで正解は正解。
音楽では、どこにも正解はなく、良いと思われることは、その時々で変わっていきます。
ピアノのレッスンで先生がその曲を合格にするのはどんな時なのかと考えれば、それはとても難しいことで、責任は重大です。
一つも音を外さずに弾けたから合格、弾けていないから不合格という単純なものではありません。
全て正確に弾けていて間違ったところがなくても、人間味がなければ、合格にし難かったりするのです。
どこか1つの魅力的なところで、不得意な部分をカバーすることもできます。
良い悪いだけではなく、その時の生徒の状態を汲み取ってアドバイスをすることが、ピアノのレッスンには大切だと思います。
ピアノの先生が宿題の中身を隅から隅まで覚えている必要があるのか…
それに越したことはないでしょうが、全てを覚えている必要もないと思っています。
毎回、新鮮な気持ちで聞かせて貰って、その時に必要なアドバイスをきちんとしようと思っています。