2022年7月5日

ベルクのソナタとラジオ体操

大学生の頃に弾いていた曲をもう一度掘り起こして練習しました。
ベルクの「ピアノソナタ 第1番」です。
この曲は、ベルクが初めて作曲した「作品1」です。


当時もそれなりに弾いていたはずですが、断然、今の方が上手に弾くことができます。
テクニック的なことはもちろんですが、曲の理解度も今の方が上ですし、音色も良くなりました。

1番大きく変わったことは、曲の速さ。
10年前にはどうしてもゆっくり弾けなかったところが、今ではゆったりたっぷり楽譜通りに弾くことができます。
第2主題の部分です。


ゆっくり弾けなかったところが弾けるというのは、年齢のおかげだと思います。
10年分のちょっとした人生経験もあるのでしょうし、10年分の肉体的な衰えもあると思います。

小学生の頃、夏休みの朝は毎日ラジオ体操がありました。
町内の広場にみんなで集まって体操をするのですが、どうしても曲と体の動きが合いません。
曲が遅すぎるのです。

どれだけ真面目に体操をしても、ピアノの演奏とジャンプの拍は合わないし、身体を回せば1拍ほど余ってしまう…
曲と身体の動きを一致させようとすると、わざとゆっくり動かさなければいけません。

短い手足、軽く機敏に動ける子どもです。
自分しか基準がなかった当時の私は、もっと速く弾けばいいのにと思っていました。

今、テレビ体操に合わせて体を動かすおじいちゃんやおばあちゃんを見ていると、曲に体がついていきません。
曲が速すぎて、身体の動きがおいていかれてしまっています。
手を回すのもやっとこ、体を倒したら起こしてくるのもやっとこ。
おじいちゃんおばあちゃん用には、もっとゆっくり弾いているバージョンが必要です。

そして私、今、曲と体操のテンポがぴったりと合います。
ラジオ体操は、きっと、若くはない大人の人の体の大きさや運動能力を対象にして作られているのでしょう。

ラジオ体操のテンポがしっくりくるように、自分が演奏する時にも、ゆ~っくりの曲のテンポ感と自分の体感テンポが一致するようになってきたのだと思います。
大学生の頃は、無理やり「ゆっくり」の曲の適正なテンポに合わせにいかなければなりませんでした。
そして、「ゆったり」「ゆっくり」の動きがしっくりくるようになって、その速さの魅力がわかってきたのだと思います。

子どもの頃は、ゆっくりの曲なんて弾いていても面白くないと思っていました。
速い曲を出来るだけ速く弾けることが上手で凄いことだと思っていました。
そして、ゆっくりの曲を美しく弾くことが難しいことだとは全く気付いていませんでした。
ですから、ゆっくりの曲の良さなんてわかっていませんでした。

大学生になれば、さすがにゆっくりの曲を美しく弾く難しさはわかっていましたが、やっぱり速い曲は魅力的でした。
速いところがない曲が課題曲になると、見どころがないから損だ…なんて思っていたほどです。

その頃の感覚のまま練習を始めたのですが、ゆったりと響きを味わいながら弾けば、この曲の何と美しいこと!
大学生の頃にもそれなりに弾いていたはずですが、今の演奏の方が断然好きです。
年をとって良いこともたくさんあります。


ラジオ体操の曲と私のからだの動きが、何歳までぴったりと合うのか分かりませんが、今後は、弾きたい曲を弾く時に曲においていかれないように若々しい体でいなければと思うのです。

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