2022年7月29日

指に感じるバウンドの正体

いつもお世話になっている調律師さんがいらっしゃる、岡崎のグランドギャラリーさんへお邪魔してきました。
国内メーカーから海外メーカーまで、たくさんのピアノがある中古ピアノのお店。



展示されているピアノを自由に触わらせていただいて、夢のような場所です。
ヤマハやカワイはもちろん、スタインウェイ、ベヒシュタイン、プレイエル…
珍しいメーカーのピアノもありました。


まるでタイムスリップしてしまったのかと思うような王室の広間にありそうなピアノや、美術館かと思うほど美しい装飾が施されたピアノ。
音を出さなくても見ているだけで幸せです。


ですが、やっぱりピアノ。
見た目が素敵だと尚更、弾き心地や音色が気になって仕方ありません。
それを弾いていいとおっしゃってくださるのです!

調子に乗って次から次へとピアノを弾いていきました。
すると、気になることが出てきました。
同じように弾いているのに、上手に弾けるピアノと、そうでないピアノがあるのです。

例えば、あるカワイのピアノで弾くと、とても上手に弾けます。
いつもぎこちなくなるところがスムーズになったり、レガートがとても楽にできたりして、普段よりも上手に聞こえます。


同じように、あるヤマハのピアノで弾くと、いつもと同じように弾けます。
きちんと弾けばきちんとなりますし、粗があるところはそのままです。


カワイの方が、レガートがとてもしやすい(普段失敗しがちなところがレガートに聞こえる)ので歌いやすい…
ヤマハとカワイでは、発音と音の伸び(減衰)の何かが違うような気がします。
何かが違うけれども、私にはわかりません。

そして、指が感じ取る感触。
カワイの方は軽くて弾力のあるタッチです。
鍵盤を押したすぐ後に、ピアノの中で何かがバウンドしているような振動を感じます。
ヤマハでは感じない振動です。

違いはわかりますが、私には一体何がどうなっているのか、わかりません。
その違いを調律師さんに伝えてみました。


この感触は前から感じていたことなのですが、誰に言っても上手く伝わったことがありませんでした。
ですから、自分の中では大きな疑問でありながらも、他の人にとってはわからないくらいの些細なことで、解決することはないのかもしれないと諦めていたことでもありました。
家のピアノではこの感触を感じることはなく、それは家のピアノのタッチが重たいからなのだ…と無理やり自己解決をしていました。

その感触の違いが音に影響するのかは私にはわかりませんでしたが、とにかくカワイとヤマハで指の感触が違うことを調律師さんに伝えてみました。
「弾いたすぐ後にピアノの中で何かがバウンドしているのが鍵盤に伝わっているんです」という曖昧な私の説明にもかかわらず、調律師さんは何度か鍵盤を叩いて「本当だね~」と言って、指の感触の違いをわかってくださいました。


少し経つと、調律師さんが嬉しそうな顔で「わかった!」と言って、私を呼んでくださいました。

ちなみに、私は、ハンマーがバウンドしているのかと思っていました。
バウンドするならある程度自由に動く物でなければなりませんし、鍵盤に振動が伝わるということは直接か間接的に鍵盤と繋がっている物…

バウンドする正体は、ダンパーでした。

ダンパーは、弦の振動を制御する物です。
鍵盤を押すと、弦の振動を抑えていたダンパーが上がり、弦から離れます。
解放された弦がハンマーで打たれることにより、弦が振動してピアノの音が出ます。


確かに、鍵盤を押せばダンパーが上がるようになっているので繋がってはいますが、鍵盤とは割と遠いところにあるような気がします。
ダンパーの動きが指まで伝わっているとは考えもしなかったので、驚きました。

鍵盤を押してダンパーを上げた状態で、そこから更にダンパーを指で上に引っ張ってみると、カワイのダンパーは数ミリ上がりました。
ヤマハの方は上がりませんでした。

余計に上がる分が、上がりきった後に重力で所定の位置に落ちてきます。
その衝撃が、指に感じるバウンドでした。

どのピアノでも調整できることで、ヤマハのピアノをカワイと同じダンパーの状態にしていただきました。
鍵盤を取り出し、ダンパーストップレールを止めているネジを緩め、レールを少し上げ、またネジを締めてその高さで固定します。


鍵盤を弾くと、指にバウンドするような感覚を得ました。

ダンパーの可動域が制限されているということは、弦が押さえつけられているということだそうです。
音の伸びにも関係があるのでしょう。
だから、音が制限なく自由に伸びるようになっていたカワイのピアノの方が、楽にレガートができたのだと思います。

弾きやすさの違いは、メーカーや型が違うからというわけではなく、調整の具合でした。
カワイのピアノだから弾きやすかったわけではないということです。

さて、練習に使うピアノは、ダンパーに余裕があるピアノか、そうでないピアノか、どちらが良いか…

良く歌ってくれるピアノで練習すれば、弾いていて心地良いですし、自然な音楽を作ることができるようになるかもしれません。
ですが、勝手に上手に歌ってくれるピアノよりも、自分で音楽を作って歌わせる必要があるピアノで練習した方が良さそうな気もします。
出会うピアノがいつでも最高の状態のピアノとは限りません。
ピアノの協力がなく、自分で良い響きや音楽を作っていかなければいけないことはよくあります。

長時間練習するとなると、指への情報は少ない方が楽かもしれません。
今までその感触で練習してきているからかもしれませんが…

いややっぱり、歌いやすいピアノで弾いている方が幸せかも…
とても悩みます。

【まごいち音楽教室】
TEL:080-3130-7057
メール:mago1.klavier@gmail.com