「leggiero(レッジェーロ)」という音楽用語があります。
「軽く」という意味です。
日本語で「軽く」と言っても、いろんな「軽い」があります。
重さが軽い、量が少ない、軽々しい、気軽に動く(力がかかっていない)…
レッスンで、小学生の生徒さんに楽語の意味を調べてくるよう宿題を出していました。
生徒さんが調べてきた意味が、「軽く、優美に」。
私の中では「leggiero」に「優美に」という感覚を持っていなかったので、とても驚きました。
何で調べた?と聞くと、インターネットで最初に出てきたやつ、とのこと。
「leggiero」は割と頻繁に使われる用語で、今まで弾いてきた曲の中で何度も出会いました。
ですから、言葉一つでは表しきれない「leggiero」の弾き方を持っています。
学生の時にたくさんの音楽用語を覚えた時から「leggiero」は「軽く」で記憶していました。
弾きながらそのニュアンスも理解していたつもりですが、「leggiero」に「優美に」という言葉が、どうもしっくりと当てはまりません。
「優美に」という音楽用語なら「grazioso」がぱっと思い浮かびます。
「leggiero」と「grazioso」が同じ意味だとは、どうしても思えません。
調べなければ…と思いながら、後回しになってしまっていて、数週間後。
水曜日に大人の生徒さんのレッスン。
ショパンの曲の中で「leggiero」が出てきました。
流れるようなアルペジオのフレーズ。
スラーもあるので美しいレガートで弾きたいフレーズに「leggiero」の指示が。
生徒さんが「軽く、優美に」と独り言のようにおっしゃいました。
ん?
今、何とおっしゃいました?
何で調べたかと聞けば、インターネットのピティナのサイトとのこと。
ピティナがそう言うならそうなのです。
確かに、ここなら「優美に」という言葉が当てはまります。
次の土日には調べなければ!
そう思っていた次の日、木曜日。
また小学生の生徒さんが「leggiero」を調べて楽譜に書き込んできました。
「軽く、優美に」と書かれています。
またかー!
土日に…と思っていましたが、その前にもう1パンチ来るとは思いませんでした。
何で調べたか聞くと、やはりインターネットでした。
今時、インターネットは便利ですね。
私も使います。
確かにインターネットで検索をすると、「軽く、優美に」という意味が出てきます。
音楽辞典を開いてみます。
すると「軽く優美な」と出てきました。
古いとは言え、これだけ厚みがある「辞典」と名乗っている物にそう言われれば、もうそれは正しい訳なのでしょう。
そこで気付きました。
きっと、インターネットからの訳は、「軽く」と「優美に」の間に、読点の「、」が書かれているから不思議に思ったのです。
「軽く」「優美に」という2つの意味があるのではなく、「優美な軽さで」でという意味ならしっくりくる気がします。
突き刺さるような棘のある軽さではなく、上品な軽さです。
イタリア語の日常会話から音楽用語を解説している本を読んでみました。
「leggiero」はイタリア語の古い表記です。
音楽用語では古い書き方のまま使われることが多いですが、現代のイタリア語では「leggero」なのだそうです。
軽さを表すのが「leggero」。
喜び、幸福、明るさ、輝き、素晴らしい表情を表現するには「leggero」。
荷物なら思っていた重さよりも軽い感覚、スポーツならスムーズに身体が俊敏に動く時がレッジェーロです。
簡単にできる仕事はレッジェーロな仕事、軽い頭痛はレッジェーロな頭痛…
画家なら素晴らしい絵筆の使い方がレッジェーロだということですので、ピアノなら繊細な音を表現するタッチがレッジェーロです。
「leggero」の項を読んでも「優美に」という言葉やそれに似た言葉が出てこなかったのが残念です。
軽薄な人のこともレッジェーロな人というそうで、これはちょっと優美ではないですね。
解決したのかどうかわからない「優美な」「leggiero」。
日本語の「軽く」に様々な意味や使い方があるように、イタリア語の「leggero」にも様々な使い方があるようです。
日本に住んで日本語で生活をしていながら、「leggero」のニュアンスを理解するのは、なかなか難しいかもしれません。
たくさん「leggiero」に出会って、たくさん「leggiero」を弾くことで、音楽の「leggiero」のニュアンスはわかってくるかもしれませんね…