先日、姪が特別レッスンを受けるというので、聴講してきました。
姪は小学3年生。
年齢にしてはそれなりのレベルの曲も弾きますが、決して上手ではありません。
レッスン会場には、5人。
緊張した姪、気合の入った母親(私の妹で少しピアノが弾ける)、特別レッスンの講師の先生、姪が習っている教室の先生、ただの叔母だけれどピアノの先生をしていて時々姪の弾き方に口を出す私。
姪は物凄い圧を感じながらレッスンを受けたことでしょう。
1回きりのレッスンですので、講師の先生は言いたいことをズバズバと言われます。
「ここはこう弾くのよ」「今の流行りはこうだから、こう弾きなさい」とおっしゃいます。
仕方のないことです。
40分の短いレッスンです。
どうして姪がそういう風に弾いているのか、初対面の相手の人柄や考え方まで理解する時間を取ってしまったら、レッスンに持って行った曲の全てを見ることができません。
どの曲も激しい音色で鍵盤を叩くように弾かれる先生だったこと。
指を鍛えるようにするには全部をスタッカートで弾くのが一番だと、ちょっと理解し難いことを言われたこと。
楽譜には明確な切れ目があるのに、どんどん前へ弾けと言われたこと。
それは、その先生のピアノの弾き方ですので、全てを納得して取り入れる必要はありません。
「レッスン」という名前ですが、私たちが求めているのはレッスンではなく「アドバイス」です。
もちろん、右手だけでなく左手も歌いましょう、拍を取りましょう、など、ごもっともなこともたくさん言っていただきました。
ただ、これ、姪の演奏を聴けば明らかに不足していることなので、できれば、姪の先生に毎週のレッスンでやっておいて欲しかった…
特別レッスンで言われる内容にしてはレベルが低くて勿体ないです。
特に「ソナチネの左手の四分音符が短すぎる」なんて、ここで言われるべきことではありません。
恐らくレッスンに持って行った1回目からそうだったのでしょうから、すぐに注意して直しておくべきことでした。
私が子どもの時に、ベートーヴェンのソナタのアドバイスレッスンを受けたことがありました。
アドバイスレッスンの先生から、逆付点音符のリズムの拍の頭がずれていて装飾音符のようになってしまっていますと言われました。
当時の私の先生は、レッスンが終わってから「おかしいかなと思っていたけれど、そういう弾き方もあるのかと思って黙っていた」とおっしゃいました。
それは完全に先生の知識不足と勉強不足で、今思い出せば腹立たしいことです。
今の私なら、絶対に拍の頭は拍の頭ですし、ベートーヴェンなら尚更拍をずらすことはあり得ません。
それくらい明確に間違った弾き方なのに、当時の先生は直すことを躊躇されました。
教えることが仕事ならベートーヴェンについての知識量が少なすぎますし、少なくともおかしいと思ったら調べる必要があります。
もし姪の先生も、同じように自信がなく四分音符の長さを放置されていたのなら困ったものです。
そうではなく、直してあげたいけれど直せなかったのなら、姪のことをまだまだわかっていないということでしょう。
短くなっている四分音符の長さを正しく取るために、講師の先生は姪の手を掴んで強制的に鍵盤から離せないようにして伝えていらっしゃいました。
1回きりのレッスンではその方法が一番だと思います。
姪の先生は、「そうか、手を掴んで動かすところまでしないといけないのか、今度からそうやってみよう」と意気込んで帰られました。
ですが、これからもずっと長くピアノを弾くだろう姪に、その指導の仕方は最適とは言えないと思います。
音が短すぎると伝えただけで直る人もいますし、違いを聴かせれば直る人もいます。
講師の先生のように、体の動きを伝える必要がある人もいます。
姪には、体の動きを外から操ることは無意味です。
楽譜を見てどこまで伸ばすか知る、正しい長さと正しくない長さを聞かせて違いをわからせる、自分の音を聞いて短いことを自覚する、正しい長さの時と正しくない長さの時の弾き方と音の違いを認識する、正しい長さで弾く、それを聴いて確認する、姪の性格や考え方からそれだけのプロセスが必要です。
たくさんのプロセスが必要ですが、姪なら、なぜそこまで伸ばす必要があるのか理由を知って納得できればきちんと直ります。
感覚や体の動きで伝えてもなかなか直りません。
そして、できれば後々そのプロセスを自分の練習の中でできるようになって欲しい。
姪とは数年の付き合いの先生なのですから、そろそろ姪の性格や特性をわかっていただきたいところです。
姪の先生の前で姪が猫をかぶっているのも悪いとは思いますが…
さて、ズバズバと言われる講師の先生のアドバイスを、うなずきながらメモを取り熱心に見ておられる姪の先生。
とても熱心に指導してくださっているとは思うのですが、少し心配。
特別レッスンで講師の先生に「暴走しがちで困っています」と相談された姪の先生。
暴走させているのはあなたです。
楽譜の中身を十分に理解できておらず、指も出来上がっていない(ゆっくりでも確実に弾けていない)のに、レッスンの割と早い段階でテンポアップを求めたからです。
姪は速く弾けと言われ、テンポアップが第一優先事項になってしまいました。
ですから、速く弾かなくては…、速く弾かなくては…、とどんどん暴走していきます。
指は出来上がっていませんから、自分では制御できません。
特別レッスンなら、無理やりにでもテンポを上げさせて、これが理想の速さでこれを目指してね、というのはありかもしれません。
ですが、何回もその曲をレッスンできる先生が、仕上がりを焦ってはいけません。
特に子どもなら、弾けないところが上手くごまかされていて表面上仕上がっていれば、あとから中身の出来具合を気にすることはないと思います。
それに、何となく弾けるようになってから、部分練習やゆっくり練習をすることを嫌がる、その練習の意味を理解できない子どもは多いです。
「ねこふんじゃった」を超高速で(ぐちゃぐちゃだけれど)弾いて面白がったり得意気だったりする子どもが多いように、どんな曲でも速く弾ければ弾けるほど、子どもには楽しいはずです。
毎週レッスンする先生の役割は、特別レッスンの先生の役割とは違います。
ですからレッスンの内容も、それぞれの先生で違うはずです。
ずっと付き合いのある関係なら、生徒の性格や特徴に合わせて、長い年月をかけてその生徒さんをレベルアップさせていかなければなりません。
表面上だけ繕ってもだめで、もっと中身を充実させて欲しい…
身体の使い方や指の使い方をきちんと指導して、音色を作っていって欲しい。
楽譜を正しく読めるようにして欲しい(音だけでなく解釈も…)。
実際に本番の時に仕上がっていれば良いわけで、レッスンの早い時期に無茶をするメリットはなく、中身が埋まっていくにつれて自然と曲も仕上がっていくのが理想です。
先生と生徒の関わり方が違えば、レッスンする内容が違ってきます。
生徒が違えば、同じことをレッスンするにしても伝え方もやり方も違ってきます。
当たり前のことですが、大切なことかもしれません。
今回の特別レッスンでは、ある一人の先生がどう曲を解釈されて弾かれているのか、純粋にピアノを弾く者として勉強になりました。
そして、姪が何を指摘されるのか、特別レッスンではどういう方法で教えられるのか、教える立場としても勉強になりました。
ただの叔母としてレッスン代も払わずに聴講した私が、一番得をしたような気がします。